「リクルートスーツ」の選び方 - 就活のための戦闘服 -

百貨店で紳士重衣料を販売しておりますと、当然学生に対して「リクルート・スーツ」を販売する機会が多いです。重衣料の販売チャネルがたくさんある中、「百貨店」にご来店されるお客様は、比較的可処分所得の高い家庭に育った学生であったり、そのご両親であったりします。販売させていただいた数ヵ月後に、学生やご両親から「内定しました!」というご連絡をいただくと、とても嬉しいものです。さて、私も商売なので、これまで「リクルートスーツ」を研究し、商品開発にかかわってまいりましたので、本日はそれについて書き綴っていこうと思います。

実は、リクルートスーツを研究するにあたり、大学の就職部(ないし、キャリアセンター)にヒヤリングに行き、「大学側が学生に対して、リクルートスーツに関して、どういった指導・アドバイスをしているのか」を調査いたしました。当然、大学は洋服のプロではないので、大学側が思っている「リクルートスーツ像」には、実際に売れているものと、大きな隔たりがありました。スーツも、ファッションの大きな流れに影響をうけるため、時代によって、微妙に変化していきます(色とか、デザインとか)。

また、学生の「リクルートスーツ姿」を見る「企業の採用担当がリクルートスーツに対して、どう考えているのか」も独自に調査いたしました。調査方法は、企業の人事部へのヒヤリング、自社以外のリクルーターの手伝いなどです。どの企業かというのはここでは言えませんが、自社以外のリクルーターをやるということは驚かれるかもしれませんが、他の業界の採用の目を知る上で、とても有効的なものになりました。

さて結論として、リクルートスーツ」は、スーツであれば、どのスーツでも構いません。但し、志望業界が決まっていないならば、どの世代にもウケが良い、落ち着いた色とデザインのものを選ぶべしです。リクルーターをやって気が付いたのですが、比較的堅い・一部上場企業でも、そのリクルーターは、スーツの色や形について、あまり注目していません。なぜならば、彼らは洋服のプロでもないですし、「スーツのディテールを見ろ」とは上司から指示されていないからです。もっと違う、本質の部分を彼らは見ています。

さてポイントは、先に上げた「どの世代にもウケが良い、落ち着いた色とデザインのものを選ぶべし」です。就職活動というのは、あらゆる世代の方と顔をあわせます。リクルーターや採用担当ならばまだ年齢が若いですが、人事部・部長課長クラス・役員など会う階層が必ず上がっていくので、その方々に良い印象を与える必要があります。この方々も当然に洋服のプロではないものの、逆に「学生はこうだ!」という思い込みがある可能性があるのも事実です。そこで、内定をもらうためには、可能な限り、このリスクはヘッジしておきたいものです。

では、そういったリスクヘッジをしたスーツとは何か。私が考え、今年もオススメし、実際に販売させていただいた「リクルートスーツ」は「二つボタン・黒無地」です。まずデザインについて「二つボタン」とは、ジャケットの前ボタンの数です。スーツの前ボタンの数は、流行によって、緩やかに変化します。よく「若々しく3つボタン」ということをおっしゃるご両親がいるのですが、必ずしも「3つボタン」は、若さを演出するものにはなりません。また、特に役員のような上の世代の方ほど「3つボタンが嫌い」というパターンが実はあります、個人的な考えが採用に影響するとは思いたくありませんが、自分の嫌いなデザインのスーツを着ている学生と、そうでないものを着ている学生とを比べて、潜在的にも、どちらか第一印象が良いかは言うまでもありません。また「二つボタン」というのは、スーツのスタンダードであって、シルエットを変えることによって、着る人間をいくらでもパリッと見せることができます。

次に色柄の「黒無地」です。色とは生地の色のことですが、私が就職活動をしていた約十年前は「紺・黒・グレー」が売れていたようです(なかでも、紺)。しかし時代は移り変わり、カジュアルも黒が流行したり、不景気の影響もあって、売場ではグレーが消え、現在では無地だと「紺・黒」の取り扱いしかしないブランドもあります。そして紺と黒の比率ですが、3対1で「黒」が多いです。ここで言う「紺」というのは、鉄紺といってほとんど黒にしか見えず、よく見ると「あー紺色だ」と分かるくらいの色なのですが、紺無地というのは社会人になるとほとんど着ない色になります(お洒落な方が、明るい紺無地をお召しになるケースはあります)。なので、これからの冠婚葬祭にも使え、しまって見える「黒無地」が評判も良く、自信をもってお勧めできるため、メーカーも生地をたくさん抑えています。なお、紺無地は二着目の購入で、オススメいたします。

この「二つボタン・黒無地」も、今私がオススメできるものであって、時代の変化とともにアップデートしていかなくてはならないものなのですが、リクルートスーツの選び方は私が述べてきたようなポントを押さえて、あとは信頼できるプロの販売員に任せ、自分がするべきことに多くの時間をかけ、自分の目指すものに他人より一歩でも近づくことが、私からの最後のアドバイスです。これから就職活動をする方、今実際に就職活動をしている方、頑張ってください。私も「超」が付く就職氷河期に就職活動をした人間です。なかなか内定をもらえないと、自分を否定されているような感じがして、暗くなるかもしれませんが、そうはならないでください。むしろ、社会人になって、その自分を評価しなかった企業を「あっ」と言わせるような仕事を他の会社でしてやる!という意気込みであなたの一社を見つけてください、そうすると実際に働いてからが楽しいです。リクルートスーツが「内定スーツ」になることを祈って、それでは。